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横浜地方裁判所 昭和44年(行ウ)15号 判決

原告 矢野正親

被告 川崎税務署長

訴訟代理人 伴義聖 丸森三郎 坂田孝志 丸山喜美雄 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二(一)  原告が別表(一)記載のとおり、その所有の土地(本件土地)を売却したこと、右売却により得た所得を譲渡所得として確定申告したことは当事者間に争いがない。

(二)1  土地の譲渡により、所得が生じた場合において、右譲渡が旧所得税法(昭和二二年法律二七号)九条一項八号にいう「営利を目的とする継続的行為」に該当するか否かについては、譲渡人の土地の取得及び保有の状況、造成の有無(但し、この点が不可欠の要素とは解されない)、譲渡人の土地譲渡の回数、数量、金額、相手方等を総合して判断すべきであるが、右判断をするについては、単に当該譲渡の目的とされた土地についてのみならず、譲渡人の保有する土地全般にわたり、かつ、当該譲渡の行われた時期の前後を通じて右の各事情を斟酌すべきである。けだし、人の経済的生活関係は時期的にも、活動内容的にも相当程度の一体性を有するものであるから、その経済活動(土地の譲渡等)の意味内容を把握するについては、その一部を抽出してこれを評価することは妥当ではなく、総合的に全体を観察して判断すべきものだからである。(所得税法は暦年ごとに、その暦年中の所得に対し課税する方法を採用しているけれども、これは財政上及び税法上の技術的要請に基づくものであつて、何ら右説示と矛盾するものではない。)

2  そこで原告の本件土地の譲渡が営利を目的として継続的に行われたものであるかどうかについて検討する。

(1) 原告の父が訴外株式会社矢野組を設立し、石炭灰の処理を業としていたこと、右訴外人は、自己が昭和三一年ころ取得した池沼、凹地に右矢野組をして石炭灰を捨てさせてこれを平担地に造成し、昭和三四年ころ以降には石炭灰の上に盛り土する土譲の採取のため山林を取得し、その土譲を切取つて盛り土に利用するとともに右山林を平坦地に造成する等の方法により(右土譲の切取り、運搬、整地等の作業はいずれも前記矢野組になさしめていた)、別表(二)記載のとおり造成したことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によれば訴外人は右造成した土地を別表(三)記載のとおり売却して利益を得ていたことが認められるところ、原告は昭和二七年ころから前記矢野組の専務取締役としてその経営に参画していたことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば昭和三六年ころ以降は、訴外人が高令のため、右訴外人所有の前記池沼、凹地の埋立等の造成は原告が右訴外人のために同人に代つて実質上、自己の一存で右矢野組になさしめ、原告自身が現場監督をしてこれをなしていたことが認められる。

(2) 昭和三九年三月三日右訴外人が死亡したので原告が訴外株式会社矢野組の代表者に就任し、かつ本件土地を含む右訴外人の所有土地を相続により取得したこと、原告が右相続により取得した土地の一部については右訴外人と同様の方法により昭和三九年一〇月以降、別表(四)記載2、3のとおり埋立てをして造成したこと、原告は右相続した土地を、造成工事を施したうえで、叉は相続時のままで別表(五)記載のとおり譲渡したことは当事者間に争いがない。(原告が自己のために昭和三九年以降同年九月までの間に別表(四)記載1のとおり造成をなしたとの事実については、これを認めるに足りる証拠はなく、〈証拠省略〉を総合すれば、訴外人の死亡直後も別表(四)記載1の埋立等がなされたことは認められるが、これは訴外矢野茂平が生前株式会社矢野組に依頼した(但し、前記のとおり、実際は原告が右訴外人のために同人に代つて依頼した)ものであり、右訴外人の死亡により、右埋立工事中であつた土地を相続した原告に対し右矢野組から埋立した費用として三、〇四八、三六〇円の請求がなされ、原告がこれを支払つたものであることが認められるにすぎない。)

(3) 〈証拠省略〉及び前記争いのない事実を総合すると、本件土地のうち別表(一)記載1の土地については、前記矢野組により三、八九三、八八〇円相当の造成がなされていること、その保有状況は、昭和三七年ごろかち原告が前記訴外人に無断で、訴外多摩生コンクリート有限会社に無償で使用させていたものであること、同表記載2の土地は原告が勧めて訴外人に買わせたものであるが、取得の動機、面積(四七一一坪)からみて、主として投機の目的で取得したものであること、原告は右訴外人の死亡により右両地(本件土地)を相続した後、その相続税納付及び当時原告がその代表取締役に就任していた前記矢野組の経営資金に充てるため、右両地を売却したこと、その売却代金は合計六七、三四八、三三三円であり、うち二、〇〇〇、〇〇〇円を相続税の納付のため支払つたにすぎないこと、以上の事実が認められる。

(4) 以上、争いのない事実及び認定した事実によれば、原告は訴外矢野茂平の生存中である昭和三六年ころから右訴外人のためにこれに代つて右訴外人所有の土地の埋立等を行つていたが、昭和三九年三月三日、右訴外人の死亡により同人の土地を相続し、同年一〇月以降は右訴外人と同様の方法により相続した土地の埋立等を開始するとともに同年七月二三日には既に右訴外人により平担地に造成されていた別表(一)記載1の土地を前記事情で訴外多摩生コンクリート有限会社に売却し、同年一一月二八日には同表記載2の土地を訴外キヤタピラー三菱株式会社に売却したのであり、その後昭和四一年一二月に至るまでの間、あるいは宅地造成を施し、あるいは埋立等を行つた土地をふくめて別表(五)記載のとおり自己所有土地を売却したというのであり、以上によれば、原告の本件土地の譲渡は相続税納付のみを目的とした一時的、臨時的、偶発的なものではなく、営利を目的とする一連の継続的行為というべきである。

従つて、右譲渡による所得は旧所得税法九条一項八号所定の譲渡所得には該当しないことが明らかである。

(三)  原告が訴外株式会社矢野組(現在は株式会社矢野建設と商号変更)の代表者として同会社の業務執行をなすことを以つてその従事する主たる事務内容となすものであつて、土地の管理、譲渡に関しては事務所を設ける等して自らその名において独立して不動産営業をなしているものと認めるに足りる実体の存在しないことは原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

(四)  以上のとおりであるから、本件土地の譲渡による所得を雑所得と認定して課税標準等、税額等を計算してなした本件更正処分には原告主張のような所得の種類を誤認した違法はない。

三  信義則違反の主張について

原告の主張は、本件確定申告は税務署係官の指導のもとになされたのであるから、被告が後日に至つて本件更正処分をしたのは信義則に反するというに帰着する。しかし、前記説示のとおり、入の経済活動による所得の具体的態様と金額の認定はこれを時間的にも継続した一体のものとして把握してなすべきものであり、このようにして考察した結果が事後の状況その他に鑑み、右指導の内容と異なつたとしても、それは何ら信義則に違反するものではない。従つて、仮に原告主張の指導があつたとしても、本件更正処分が信義則に反するということはできない。

四  以上のとおり、本件更正処分は相当であつて、原告主張の所得の種類を誤つた違法も、信義則違反による違法も存在しないから、本訴請求は理由がなく、棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達蔵 吉岡浩 野崎惟子)

別表(一)~(五)〈省略〉

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